90歳代とお見うけするお母様と、そのお嬢様のご来店です。
上品な親子さんです。
コロナ禍の今は、お店に入ってすぐに、マシンが置かれています。
その前に立って頂いて、手を出して頂くと、アルコール消毒液が出てきて、
しかも体温も計れるというものです。
お母様は、これ、なぁに?と、少し、腰が引かれていらっしゃいます。
もう一歩、もう一歩前にとお願いして、お母様にもご協力して頂きました。
お母様がそっと出された指には絆創膏が巻かれていて、手のひらも少し荒れていらっしゃいます。
消毒のし過ぎが原因なのかもしれません。
それでなくても、冬は寒さと乾燥で手荒れがしますのに、コロナの禍は細かいところにもあります。
”傷にしみませんか?”
お嬢様 ”大丈夫です”
ーーーああ、お嬢様が答えちゃった。
ーーーお母様、本当に大丈夫ですか?
私もしちゃいます。同じこと。
もしくは、”大丈夫よね、お母さん” と言ってしまいます。
人様のことだと気付きます。
身内であるゆえに、一緒に遠慮させてしまうこと。
母には私しかいないのですから、本来なら、私が一番甘やかしてあげなければ、母が可哀想なのかも、、、
”ご協力ありがとうございます。消毒のし過ぎで手が荒れてしますね。”
ご高齢で、杖はお持ちではありませんが、ゆっくりと歩かれます。
椅子に座られる時も、お嬢様と私とでお支え致しました。
お嬢様がご一緒でなければ、お出かけは無理でしょう。
お嬢様が、何かと気遣っているご様子です。
お隣のテーブルのお客様に配膳をしておりましたら、コトッと音がしましたので何!?と思いましたら、お嬢様がお湯のみをひっくり返されました。
わかります!お嬢様!
私もよくしてしまうのです。
母のことが気になって、母の世話をしようとして、こちらが失敗してしまうこと。
思い出します。
痛い失敗。
あれは、夏の合同公演(母は新舞踊の師範です)の帰りでした。
母はグレー、私はピンクで、柄は違うのですが、印象がすごく似ているので、色違いにも見える絽の小紋を着ておりました。
”親子みたいねぇ”
”だって親子でしょ” などと冗談を言いながら、仕立て下ろしの着物を着て、気分よくしておりました。
夕飯は済まして帰ろうということになって、洋食屋さんに入りました。
そこで私はやってしまいました。
向かいで食べている母に、テッシュを渡そうとして、袖がビーフシチューの上を
ずりぃ~と。
ぎゃぁ~~~~~~~
お店の方にもご心配頂き、大変な騒ぎになりました。
タオルとお水と炭酸水までご用意頂きました。
(水よりも炭酸水が良いと、黒服の方がおっしゃって、化学反応でしょうか???)
母だってテッシュは持っていたのです。
でも、私の方がすぐに出せると思ったのです。
何も、そんなに慌てることはなかったのです。
その着物ですか?
母が、”よりによってデミグラソースなんて!絶対に落ちない!” と言って、
怒りにまかせて、洗濯機で洗ってしまいました。
私に、止める権利も気力もありません。
何とか着物の姿は留めています。
バイト先の話に戻します。
テーブルを拭いておりましたら、お母様が、 ”そそっかしいのよ” とおっしゃいました。
きつく責めているわけではありませんが、確かにご自分のお子様を諭しているという感じです。
そのご様子が素敵でした。
ご高齢で、お体は衰えて、お嬢様に介添えをお願いしていても、お母様はお母様です。
当たり前ですが。
お嬢様は苦笑いで、でも素直に叱られておいででした。