母と私の着物ぐらし

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仲居さん日記19~お母様はお母様

90歳代とお見うけするお母様と、そのお嬢様のご来店です。

上品な親子さんです。

 

コロナ禍の今は、お店に入ってすぐに、マシンが置かれています。

その前に立って頂いて、手を出して頂くと、アルコール消毒液が出てきて、

しかも体温も計れるというものです。

 

お母様は、これ、なぁに?と、少し、腰が引かれていらっしゃいます。

もう一歩、もう一歩前にとお願いして、お母様にもご協力して頂きました。

お母様がそっと出された指には絆創膏が巻かれていて、手のひらも少し荒れていらっしゃいます。

 

消毒のし過ぎが原因なのかもしれません。

それでなくても、冬は寒さと乾燥で手荒れがしますのに、コロナの禍は細かいところにもあります。

 

”傷にしみませんか?”

 

お嬢様  ”大丈夫です”

 

ーーーああ、お嬢様が答えちゃった。

ーーーお母様、本当に大丈夫ですか?

 

私もしちゃいます。同じこと。

もしくは、”大丈夫よね、お母さん” と言ってしまいます。

 

人様のことだと気付きます。

身内であるゆえに、一緒に遠慮させてしまうこと。

母には私しかいないのですから、本来なら、私が一番甘やかしてあげなければ、母が可哀想なのかも、、、

 

”ご協力ありがとうございます。消毒のし過ぎで手が荒れてしますね。”

 

 ご高齢で、杖はお持ちではありませんが、ゆっくりと歩かれます。

椅子に座られる時も、お嬢様と私とでお支え致しました。

お嬢様がご一緒でなければ、お出かけは無理でしょう。

お嬢様が、何かと気遣っているご様子です。

 

 

お隣のテーブルのお客様に配膳をしておりましたら、コトッと音がしましたので何!?と思いましたら、お嬢様がお湯のみをひっくり返されました。

 

わかります!お嬢様!

私もよくしてしまうのです。

母のことが気になって、母の世話をしようとして、こちらが失敗してしまうこと。

 

 

 思い出します。

痛い失敗。

 

あれは、夏の合同公演(母は新舞踊の師範です)の帰りでした。

母はグレー、私はピンクで、柄は違うのですが、印象がすごく似ているので、色違いにも見える絽の小紋を着ておりました。

 

”親子みたいねぇ”

”だって親子でしょ”  などと冗談を言いながら、仕立て下ろしの着物を着て、気分よくしておりました。 

夕飯は済まして帰ろうということになって、洋食屋さんに入りました。

そこで私はやってしまいました。

 

向かいで食べている母に、テッシュを渡そうとして、袖がビーフシチューの上を

ずりぃ~と。

 

ぎゃぁ~~~~~~~

 

お店の方にもご心配頂き、大変な騒ぎになりました。

タオルとお水と炭酸水までご用意頂きました。

(水よりも炭酸水が良いと、黒服の方がおっしゃって、化学反応でしょうか???)

 

母だってテッシュは持っていたのです。

でも、私の方がすぐに出せると思ったのです。

何も、そんなに慌てることはなかったのです。

 

その着物ですか?

母が、”よりによってデミグラソースなんて!絶対に落ちない!” と言って、

怒りにまかせて、洗濯機で洗ってしまいました。

 

私に、止める権利も気力もありません。

 

何とか着物の姿は留めています。

 

 

バイト先の話に戻します。

 

テーブルを拭いておりましたら、お母様が、 ”そそっかしいのよ” とおっしゃいました。

きつく責めているわけではありませんが、確かにご自分のお子様を諭しているという感じです。

 

そのご様子が素敵でした。

              おばあさんのイラスト「笑顔」

 

ご高齢で、お体は衰えて、お嬢様に介添えをお願いしていても、お母様はお母様です。

当たり前ですが。

 

お嬢様は苦笑いで、でも素直に叱られておいででした。