~うしろ姿を見間違える
バイト先が暇すぎて、仲居さん日記もなかなか進みません。
あれだけ(どれだけ?)の店で、お客様が 0 って、ホント大変だと思います。
そんな中、いらっしゃいました。
ご両親様とお嬢様です。
近頃の平日お昼ではめったにご注文頂けないコース料理をオーダー下さいました。
店長は、”奇跡がおきた”と小躍りなさっていたほどです。
ご案内は黒服さんがして下さいました。(まずは、言い訳1です)
お父様が、こちらを向いて座られて、お母様とお嬢様はお背中が見えています。(言い訳その2)
配膳の時は、粗相のないように手元に神経を集中しております。
以前、お味噌汁をひっくり返したことがあります。
幸いに、お盆がすべてを引き受けてくれて、お客様にかかることはありませんでした。
その上、なお幸いなことに、そのお客様は ”俺の前では、女はみんな緊張するのさ。悪かったね” などとおっしゃるような変わった優しい方だったので助かりました。
でも、あの時のひやぁ~は忘れられません。
お父様にお料理をお配りするときも、お向かいにいらっしゃるお母様とお嬢様のお顔はほとんど見ないんです。(言い訳その3)
親子さんでお出で下さった場合、まずはお母様にお出しするようにしています。
近頃のお父様方はお優しいですし、レディファーストの意識って意外に根付いています。
次にお嬢様か、お父様かは、お席の具合で、あまり行ったり来たりとお邪魔にならないように考えてしております。
さて、その日のお嬢様はベージュ、お母様はグリーンと黄色の花柄のトップスでした。
髪型は、お嬢様が束ねていらして、お母様はそのまま下げていらっしゃいました。(言い訳その4)
うしろ姿で、完全にお母様とお嬢様を間違えていました。
前菜、お椀と済み、お造りをお出しするときに、お母様が椅子の背に大きめの荷物を置いているのが気になりました。
”奥様、よろしければ” と、お顔を見てビックリ!
”まあ、お嬢様でした。後姿では分かりかねて、、、失礼致しました”
”お嬢様、よろしければお鞄をそちらにお載せ下さいませ”(窓辺が棚になっています)
”はい!大丈夫です!” (とおっしゃいながらも後で、棚に載せていらっしゃいました)
ーーー学生さんかしら。こんなお可愛いお嬢様をお母様と間違えてしまって、失礼しちゃったわ。それに、お母様から配膳しないでお嬢様からなんて、ヘンテコだったし。反省。
次の焼き物の時に
”失礼いたしました。お母様が御先でございました”
”いいんです。この子からお願いします。今日、お誕生日なんです”
”まあ、おめでとうございます!では、私の間違いもまんざら間違いではなかったのですね”
―ーー自分に甘い私。でも、結果オーライ的になりました。
”では、おとめ座ですね。いいですね。可愛らしくて。人様に言いやすいですよね”
などとお話させて頂きましたが、”うちの母もおとめ座です”は飲み込みました。
板場に
”お嬢様が、今日、お誕生日なので、デザートは可愛くしてもらえますか?”
”ん?どこのお嬢さん?”
ーーーですよね。板場はホールを見ていないのでわかりません。
”コース料理を召し上がっている3名様が、親子さんで、お嬢様がお誕生日です”
言い直しました。
そのコースのデザートは、その日はフルーツゼリーと抹茶アイスでしたが、お嬢様にだけ巨砲が2つ付きました。
この巨砲、皮が花びらのように剥いてあって、まあ、可愛いのです。
これだけのことですが
”お嬢様にだけ、ささやかではございますが葡萄を付けさせて頂きました”
ささやか過ぎて笑っちゃうのですが、それでも喜んで頂いたご様子です。
お帰りの際、お嬢様に、
”大切な日に当店を選んで頂いてありがとうございました。年に1度だけですもの。嬉しゅうございます”
お嬢様がにっこりと微笑んで、深々と頭を下げて下さったので、
私も負けじと下げました。