ご両家のお顔合わせのための下見のお食事までなさった、真面目なカップルにお会いするのを楽しみにしておりました。
いよいよ、その日となりました。
朝頂くメモには、鮎、太刀魚NGと書いてあります。
さすが、今の店長に抜かりはありません。
開店時間の11時30分にご予約を頂いておりますが、そこは真面目なお二人の事、
店の前でご両親をお迎えするおつもりで早めにお出でになっていらっしゃいました。
ご挨拶に出ました。
ほほあん
”先日はありがとうございました。また、本日はおめでとうございます”
お二人
”あっ、お世話になりました。今日もよろしくお願いいたします”
ほほあん
”こちらこそ、よろしくお願いいたします”
~~~~~
ご両家のご両親様がお揃いになりました。
ほほあん
”本日はおめでとうございます”
皆様
”ありがとうございます”
なるほど、あのお二人のご両親様
気取った感じも無く、柔らかい印象です。
ほほあん
”どうぞどうぞ、お進み下さいませ。
御存じでいらっしゃるのですから、お先にいらして下さいませ”
彼氏さんを先頭に、皆様が続かれます。
私は、後ろに下がっていた方が良いと思ったのですが
やばっ!
お靴のお世話をしなくては
バイト先の個室は、靴を脱いで上がって頂くシステムです。
そのままで、と、申しましても、特に御婦人方は御自分で靴を揃えようとなさいますので、
”どうぞ、そのままで、こちらで致します” と、度々お声をお掛けします。
沓脱石には2足がせいぜいなので、片付けて、次の方が上がりやすい様にしてさしあげなくてはなりません。
後ろから、のんびり付いて行っている場合ではありませんでした。
ドンマイ
打ち合わせ通り、彼氏さんのご挨拶と、それから、それぞれのお母様に婚姻届けの保証人にご署名をお願いするとのことで、それまではお邪魔しないことになりました。
板場には、”当分、始まりません” と報告。
呼ばれるのを待ちます。
お部屋から、大きな笑い声が聞こえます。
よしよし。皆様に祝福されたお幸せな結婚なんだわぁ~。
ふと、先日の切ないお父様の事を思い出します。
でも、お話が弾み過ぎて、なかなか呼ばれません。
さすがに店長が
”どうなってます?”
ほほあん
”呼んで下さるまで、もう少しお待ちください”
ブブブゥ~
やっとスタート出来そうです。
お席は、掘りごたつ式の和室です。
床の間の前に彼氏さんのご両親様、相向かいに彼女さんのご両親様、お父様、お母様がそれぞれ向き合うように座っていらして、
奥に彼氏さん、入り口に彼女さん
お二人が、先日ご相談の上、決めた席順です。
これが御接待の場合ですと、1~6の順番にお配りすることとなります。
立ったり座ったりと、こちらも大変です。
時間もかかって、お客様の方も鬱陶しい感じになるのではと心配でもありますが、お客様も、充分意識なさって座られているので、御接待のお席で配膳の順は大事です。
お友達や、ご家族のお食事会の場合は、”こちらの手順でさせて頂いてもよろしゅうございますか?”とお声をかけて
お盆に2つ以上乗るような場合は、1、5とお配りすることもあります。
お配りする時間を短縮して、他人の私は早々と下がって、早く水入らずにして差し上げた方が良いと考えます。
さて、今日は、どのような順番に致しましょうか、、、
下見までなさったお二人です。
こちらが楽!なのを優先したくはありません。
先ず、1のお父様
次に、お盆に二つ載せて、3,4のお嬢様のご両親様
そして、また二つ載せて、2のお母様と、6のお嬢様
最後に5の彼氏さん
と決めました。
これは、これで良かったと思います。
ところが、
ここで
痛恨のミス!
2のお母様と、6のお嬢様の配膳中に、お話をさせて頂いて、笑ったりなんかして
調子に乗ったんでしょうね、わたし
彼氏さんの煮物を出さずに、下がってしまいました。
長手の上で、彼氏さんの煮物の器は、下げた焼き物の器とともに洗い場へ。
ブブブゥ~
私は、他のテーブルに居りましたので、K先輩がお部屋に行って下さいました。
K先輩
”何か、1つ出してないお料理があるって”
ほほあん
”へ?”
・・・・・・・
”あーーーーーーーっ!”
”どうしよ。出さないで帰って来ちゃった”
慌てて、煮方に謝って、一つ作ってもらうようにお願いしました。
煮方
”わかった!”
忙しい日なのに怒らない。
ありがとう。まだお若い調理場主任さん!
お部屋に謝りに行きます。
ほほあん
”大変失礼致しました。今、作ってもらっています。申し訳ございません”
すぐに作ってくれたので、お持ちしました。
ほほあん
”お待たせして申し訳ありません。今日の主人公のお客様に大変な失礼をしてしまいました”
彼氏さん
”大丈夫ですよぉ~”
以前と違い、個室の担当は1室一人ではなく、4室を二人で協力して頑張る!みたいになっています。
なので、私のホローをK先輩がして下さったのですが、
その後も他のお部屋とのタイミングが悪くて、ご両家お顔合わせの鯛めしもK先輩が出して下さいました。
助けて下さっているのに
K先輩
”ごめん。鯛めし、持って行きたかったでしょ。私が行っちゃってごめんね”
こんなことおっしゃるんですよ。
どれだけ恵まれた職場であるか、お解かり頂けますでしょ。
でも、デザートは私がお持ち致しました。
良かった。
あのままお顔を出さなかったら、煮物で失敗したから外されたと思われてしまいますよね。
ほほあん
”本日は、ありがとうございました。
又、粗忽者の私をお許し頂きましてありがとうございます”
皆さま、暖かい笑顔です。
いい方々で良かったぁ。
配膳の途中で、実はお二人のご新居が私の最寄り駅と同じことがわかりました。
ほほあん
”お宅の近くでお目にかかるかもしれませんねぇ。
あっ、いえいえ、是非、またここでお目にかかりたいと存じます。
お待ちしております”
ふぅ~