ひときわ景色を楽しんで頂ける角部屋をご予約下さったのは、ご夫婦。
ご主人様のお誕生日!しかも、還暦 のお祝いだそうです。
いらした時から仲睦まじいご様子でしたが、少しお話しさせて頂くと、本当に感じの良いご夫婦でした。
この日は、お隣のご両家お顔合わせのお部屋も担当しておりました。
二部屋を担当しておりますと、こっちを出しておいて、それからこちら、、、などと
それなりに考えてはいるのですが、
う~ん、どうしよう
ってなることがあります。
で、先輩Kさんとも相談して、ご夫婦の方は、せっかくのお二人の時間をゆっくりと過ごして頂けるように、ゆっくりめの配膳でも良いのでは、、、
ということになりました。
そこまでは、いいのですが、
お顔合わせのお席のお飲み物などに追われているうち、このご夫婦のお碗を板場に声かけするのが、予定よりも遅くなってしまいました。
その時間には板場も目一杯で、なかなか上がってきません。
自分が悪いのですが、ちょっと焦ります。
出来上がったお碗を持って、お部屋に伺うと
すでに、前菜は綺麗に召し上がっておいででした。
”お待たせしてすみません”
”いいえ、大丈夫ですよぉ” と、笑顔の奥様。
”せっかくの角部屋のお部屋で、ご夫婦水入らずのお食事をゆっくりと楽しんで頂きたいとは思っていたのですが、それにしても遅すぎました。申し訳ありません”
”まあ、ありがとうございます” と、奥様はさらに笑顔です。
あらまっ!調子よく言い訳しちゃったのに、お礼を言われてしまいました。
ご主人様は、おとなしそうな、お優しそうな方です。
今日は、ご主人様の還暦のお祝いと伺っておりますが、奥様が上座にお座りです。
きっと、景色が見える良い席を奥様に勧めたのでしょう。
優しいご主人のお気持ちに沿って、配膳も奥様からに致しましょう。
"今日は、ご主人様が主役でいらっしゃると伺っておりますが
レディファーストにさせて頂きますね”
”ああ、どうぞどうぞ” ご主人様も笑顔です。
と、奥様が
"この部屋の上座ってどっちですか?”
おっおい!とツッコミをを入れたくなるこの質問。
確かに解りづらいお部屋もあります。
入口側の方が景色が見えるとか、床の間のある席に座ると景色が見えないとか、、、
でも、このお部屋は、床の間の前の席に座ると、前方全面、更に右手まで大きく窓が取られていて、高層からの景色を楽しむことが出来ます。
"床の間の前の奥様のお席が上座になります”
”そっかぁ、ごめんね” と、ご主人様に謝る奥様。
"奥様に景色の良いお席を勧められるお優しさが、ご主人の株を更に上げるというものでございます”
と、軽口をきいて退出して参りました。
上座が解らない、ちょっとおとぼけな奥様も可愛らしいです。
笑ってしまいました。
お祝いのお席には鯛飯をお勧めしています。
以前は、お店からのサプライズのサービスだったのですが
最近は、有料になってしまいました。
この、どうだ!とばかりに土鍋の蓋を開けて、鯛飯をお披露目するのが大好きでした。
皆さんが、私にお礼をおっしゃるので、とても気分の良い時間でしたのに残念です。
で、この度は、有料にもかかわらず、ご主人様の還暦のお祝いのために鯛飯をご注文頂いたということです。
"お勧めさせて頂きました鯛飯がこちらでございます”
土鍋の蓋を開けますと
”わぁ~すご~い。良い匂い” と、喜んで頂けました。
”鯛飯とご主人様でお写真を撮られますか?
あっ、お二人でご一緒に撮りましょう”
”はい!チーズ!”
奥様にスマホをお返しして、ご主人様の前に鯛飯を置きます。
すっかり、このご夫婦に気を許しているほほあんは、
奥様の後ろで、両手を挙げて わぉ
ご主人様を笑わせたかっただけなのですが、
ご主人様も同調してしまって
"ご主人様は、割と、つられてしまうタイプなんですね”
”そうなんですよ” と、奥様と大笑い。
”お預かりして、ほぐほぐしてまいります。あっ、私ではなく、ちゃんと板場が致しますのでご安心下さい”
小さめの土鍋とはいえ、山盛りで2杯づつはありそうです。
1杯目は、私がお付け致しましたが、後は奥様にお任せ致しました。
この夏、鰻弁当で食中毒というニュースが世間を騒がせました。
あれ以来、バイト先では、お持ち帰りをお断りさせて頂いております。
嬉しいことに、綺麗に召し上がって下さいました。
お帰りの際もニコニコなさって、楽しい時間を過ごして頂けたのがわかります。
こういうお見送りは、こちらも幸せな気持ちさせて頂きます。
私にお気づきになって
"待っていて下さってのですか" と、奥様。
”なるべく、お見送りはしたいと思っております”
”とても美味しかったです。お世話になりました”
とおっしゃって下さいました。
うっかり裏で片付けものなどをしておりますと、お客様のお帰りに気付かないことがございます。
この時も、しっかり者のMちゃんが
”○○室のお客様、お立ちです" と教えてくれました。