母と私の着物ぐらし

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仙人夫婦

せっかく生まれてきたのですから、自分の魂を育ててあげたい、誰がどう評価して下さるかは別として、自分がカッコイイと感じられる自分になりたいです。

 

     目標を達成した人のイラスト(女性)

 

人が持って生まれた幸運の量は、皆同じだと言います。

どんなに強運に見える方でも、悩みの無い人はいないということでしょう。

 

だとしたら、私はお人に恵まれているということで、幸運の大半の量を消費しております。

たくさんの素敵な方にお目にかかりました。

その都度、こんな風になりたいなぁ~と憧れ、頑張って真似てみたり、でも無理だったり、、、

 

 

ですが、あまりにも私とはかけ離れていて、いえ、もはや人間離れしているご夫婦がいらっしゃいました。

母と私はそのお二人を仙人と呼ばせて頂いていておりました。

 

仙人ご夫婦は、私の住まいがあるコの字型に区画された住宅地の、2軒分に大きなお家を建てられて、ゆったりと暮らしていらっしゃる裕福なご夫婦です。

 

ご近所さんではありますが、ご挨拶程度のお付き合いでした。

 

仙人のお宅は立派なお庭がありましたが、駐車場のスペースは無く、すぐ裏の駐車場を借りていらっしゃいました。

我が家と同じ駐車場です。

 

この時点でだいたい想像がついたことと思います。

でも、私ではありませんよ。

母です。

バックに入ったままなのに、ドライブのつもりでアクセルを踏んだようです。

 

勢い良く、仙人のマークⅡ(その当時、ちょっと流行の高級車)にガシャン!

そして、マークⅡが駐車場の塀をガシャン!

 

哀れマークⅡは前も後ろも見事に凹みました。

 

すぐに仙人のお宅に謝りに行きました。

 

駐車場に停車中の車にぶつけたのですから、100%こちらの落ち度です。

しかもマークⅡはピカピカの新車!

別の新しい車を要求されても仕方のないところです。

 

ところが修理すれば良いとのことで、仙人が利用されているトヨタのお店にお願いすることに致しました。

 

数日後、トヨタの方からお電話を頂きましたが、とても怒っていらっしゃいます。

仙人がいい人だからといって、いい加減な対応をしてくれては困る!というものでした。

こちらとしては、全てお任せして、費用はもちろん全額お支払いするつもりでしたのに、どうしたことでしょう。

私たちには、穏やかにお話していらっしゃいましたが、本当は怒っていらしたのでしょうか。

 

また、すぐに母が仙人宅にお邪魔しました。

 

仙人の奥様がおっしゃるには

 

”まあ、そんな失礼なお電話を〇〇さんにするなんて、どうしたことでしょう。

修理を頼んだだけですのに。

だいたい、乗りもしないのにあんなところに停めておいたこちらが悪いんです”

 

???

     

 

いえいえ、駐車場ですもの。車を停めておくのは当然です。

 

車を新車に変えた直後に、仙人が体調を崩されて、あまり乗っていらっしゃらないのだそうで、奥様仙人は、そのことをおっしゃっています。

 

さらに仙人夫婦のお話は続きます。

 

”家の車は、〇〇さんが壊したので、〇〇さんに直して頂くとして、駐車場の塀は、家の車が壊したのですから、うちで弁償させて頂きます”

 

??????????

 

ちょっと何をおっしゃっているのか分からなくなります。

 

おさらいします。

仙人の車は駐車場に停まっていました。

母の車が仙人の車にぶつけたので、押された仙人の車が塀に当って、塀を壊しました。

 

つまり、塀を壊したのは、、、、、、、はい、母です。

 

 

もちろん、駐車場のオーナーにもすぐに謝りに行きました。

塀を直すように言われたので、もちろん、お支払いしますと申し上げました。

 

でも、世の中、仙人のような方もいらっしゃれば、違うタイプの方もお出でになります。

その駐車場は、4軒分の幅のある細長い駐車場だったのですが、その方、長い塀を全部新しくなさいました。

この際綺麗にして、何分の一かが家の支払いになるのかと思っていましたら、全額を請求をされました。

 

     お財布のキャラクター(驚く)

 

これは、ご近所で、皆さんに同情されました。

 

仙人の奥様も

”ひどい事なさるわねぇ。ほんと、〇〇さんはお気の毒。

うちの車があんな所にあったものだから。申し訳ないわぁ”

 

 

 

<後日談その1>

 

仙人にまで、ひどい人!と思われてしまった駐車場のオーナーは、その後、会社経営が上手く行かなくなり、お住まいも駐車場も手放されて引っ越していかれました。

 

 

<後日談その2>

 

ある日、4号線を母と車で走っていると、隣の車線を白いマークⅡが過ぎて行きました。

母が

”あの車、見てごらん。後ろとドアと、同じ白でも色が違うよね。事故って修理したんだね”

”ああ、ホントだ!白でも、色の違いがわかるね。目立つねぇ~”

 

すれ違ったら、びっくり!仙人ご夫婦が乗っておられます!

 

”やだ、仙人夫婦じゃない。お母さんが壊した車だよ”

 

修理の仕上がりが、そんな残念な感じだったことを仙人夫婦はひと言もご不満をおっしゃいませんでした。

 

 

その後は、あまりお車に乗られるお姿を拝見する機会はなくなり、仙人が乗る車椅子を奥様が押して散歩されていらっしゃいました。

 

いつも穏やかなお顔をなさって、楽しそうにおしゃべりしながら、仲の良いご夫婦でした。

お幸せそうでした。

 

 

自分は少しも悪くないのに、被害を受けて、それを怒ることも無く、あくまでも相手の立場を思いやり、、、なんて、私には出来そうにありません。

 

ご高齢でしたので、今は極楽に引っ越されてしまわれて、ご近所さんではなくなってしまいましたが、世の中にはこんな人もいらっしゃるということを教えて下さった素敵なご夫婦でした。