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仲居さん日記47

   ~奥様がお誕生日のご年配のご夫婦

 

マンボーで、またまた飲食店は大打撃!

バイト先も大変な状況になっています。

お客様はほとんどお見えになりません。

頂くお電話は、キャンセルばかりです。

 

そんな中、奥様のお誕生日だということで、ご年配のご夫婦がお出で下さいました。

 

     仲良く腕を組む夫婦のイラスト(高齢者)

 

”今日は家内の誕生日でね” (ニコニコ)

 

”おめでとうございます” (もちろん、笑顔で)

 

”誕生日をお祝いしてもらう歳でもないんだけどね” (ニッコニコ)

 

”大切な日に当店を選んで頂いてありがとうございます”

 

いいですね。長年連れ添った、仲良しのご夫婦って。

お目にかかっただけで幸せのおすそ分けを頂けます。

 

 

と、ここで、時間を戻させて頂きます

 

朝の我が家の玄関です。

 

私道の入り口にある我が家の角が、ゴミの収集場所になっています。

出がけにゴミを出そうと、玄関を開けた時にマスクをしていないのに気が付きましたので、玄関を開けたまま、マスクを付けていました。

 

私が出たら鍵を閉めようと、そこにスタンバイしている母が

”もう、何やってるの!最近、ボケてるよ。お母さんよりボケが進んでるんじゃないの!” (いや、それはない)

 

そこに数軒先の奥さんが、ゴミを出してご自宅へ戻るところで通りかかりました。

 

”おはようございます”

”おはようございます”

 

”あっ、それ、出すの?

 

半透明ゴミ袋のイラスト

 

家のゴミに近寄っていらっしゃいます。

”あっ、大丈夫です”

 

人様に我が家のゴミを出させるなんてイヤです。

まして、母より5歳くらいはお若いでしょうか。

つまりは私の大先輩です。とんでもないです。

それに相変わらず、マスクをなさらないで、何方とでもおしゃべりなさるこの

奥さん。

玄関でマスクをしていない母に話しかけられたらと思うと気になります。

 

お断りしたのに、ゴミを取ろうとなさるので

“ほっといて下さい!”

少し声が大きくなりました。

 

”余計な事して悪かったわね”

 

私はこの奥さんが苦手です。

物腰が柔らかく、色々とお世話をやいて下さいます。

でも、申し訳ないのですが、親切で優しい方と感じたことがありません。

 

”余計な事して悪かったわね”は、本当に静かな言い方をなさったのですが、頭の中を巡って、私をモヤモヤさせます。

 

駅までの道すがら、

こんなことで朝からイライラしている場合じゃないわ。

こんな気分のまま接客したらお客様に失礼だし、自分がつまらないだけだもの。

 

店に着くころには、落ち着いて、鏡で着物姿をチェックして、よしっと

お仕事モードです。

 

ドアを開けたら、黒服さんの後姿が見えました。

”おはようございま~す”

 

”・・・”

 

黒服さんは、正面からご挨拶すればお返事なさいます。小さな声で。

後ろや斜めには反応しません。

 

怒っているわけではありません。

意地悪して無視しているのでもないのです。

 

こんな経験ありませんか?

すれ違いざまに”こんにちはぁ”と声をかけられて、慌てて、”こんにちは”と答えると、実は、私の後ろにお知り合いの方がいらして、その方にご挨拶されていたってこと。

 

ちょっと恥ずかしいですよね。

 

黒服さんは、この恥ずかしい経験を絶対にしたくないんです!

(あくまで、私の分析です。事実は不明です)

 

他の方がご挨拶なさっているのに、無視したような感じになるのは何度も見ています。

客観的に見ていると、御自分に挨拶したと気付いていないだけなのが良くわかります。

 

でも、いざ、自分が無視されると、何なのぉ~と思ってしまいます。

 

無口ですよ~。

高倉健かっ!ってツッコミたくなります。

 

備品を処分するときは、黒服さんに確認するのですが

”これ、捨ててもいいですかぁ?”

”どうぞ”

以上。みたいな。

 

お尋ねすれば、答えて下さいます。

でも、朝からモヤモヤの私は、あっさりし過ぎる返事を聞く元気がありません。

 

本当は確認したいことがありました。

 

ご予約のご夫婦をご案内する予定のお席が、相向かいにセットされています。

間にはパネルが立ててあります。

 

いつもは、ご夫婦でご予約の場合には、お二人並んで窓を向いて座って頂くようにセットします。

 

でも、マンボーですし、お客様のご希望かもしれません。

 

だいたい、バイトの仲居さんが、ご夫婦なら、窓向きのお席の方がいいんじゃないですか?と、黒服さんに言うのも出過ぎたことかもしれません。

 

 

はい!ここで、お客様がお出で下さった時点にもどります。

 

一番奥の、川が目の前に見えるお席にご案内いたしました。

 

”よろしければ、お二人並んで窓の方を向いて召し上がって頂けるように、お席を直させて頂きますが”

 

やっぱり、これは確認したいです。

 

”そう?悪いね。そうしてもらおうかなぁ”

 

黒服さんがテーブルを直してくれました。

こういうときに、面倒そうなお顔はなさいません。

そういう方ではありません。

 

”いやぁ。申し訳ないねぇ”

”ああ、この方がいいねぇ。ありがとう”

 

”今は、色々とうるそうございます。ご夫婦でもいらっしゃらないと、この形には出来ませんので”

 

”ああ、そうだろうねぇ。今はねぇ”

 

”お待たせして申し訳ありません”

 

本当は、初めからこの形でお迎えすることも出来たのですが、お待たせしてしまいました。

でも、わざわざ変えた感じになって、お客様は喜んで下さいました。

こういうのをあざといというのでしょうか。

 

本当に感じの良いご夫婦で、最初にお出しした小鉢の、大根とお魚のアラを炊いたものを味が染みていてとても美味しいとおっしゃって下さいました。

 

”板場に伝えます。とても喜びます。お褒めの言葉は励みになりますので”

 

お優しいご夫婦は、この<励みになる>をくみ取って下さって、その後のお料理も、全て美味しかったとお声をかけて下さいました。

 

 

今日は、モヤモヤの気分をお客様のお陰で晴らして頂いた、幸運な仲居さんのお話となってしまいました。