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仲居さん日記32~初節句のお集まり

まず、店に出て最初にすることは、本日のお客様のご予約状況の確認です。

 

お名前、お人数、お使いになるお部屋や、テーブル番号、お料理のコース名、そして、どんなご会食であるかが、簡単なメモにしておかれています。

それを、自分用にコピーして、お部屋や、テーブルのセットを始めます。

 

メモ欄を見ますと、節句とあります。

この段階で、嬉しくなります。

この時期ですと坊ちゃんですね。

そのお可愛らしい姿にお目にかかれますし、初節句のお祝いともなりますと、お集りの皆様がご機嫌に違いないのです。

 

ご予約のお部屋には、大きな箱がありました。

チラッと中を覗いてみますと、お節句のお飾りのようでした。

メモをもう一度、よく見ると、兜持ち込みと小さく書いてありました。

 

         五月人形・鎧飾りのイラスト

 

いいですねぇ~。

こういう、気合の入ったお食事会が大好きです。

 

さて、このお飾りは、誰がするのでしょう?

わたし?

いえいえ、初節句でしたら、皆さんで飾り付けをなさるのもきっと楽しいはずです。

それよりも、他人に触られたくは無いと思っていらっしゃるかもしれません。

 

黒服さんに聞いてみました。

”初節句のお部屋なんですが、お飾りはお客様ご自身でなさるのですか?

 

”そうです!触らないで下さいねっ!” と、キッパリ。

 

”はい、そぉっとしておきます。”

ーーーさっき、覗いちゃいましたけど、ドンマイ。

 

さて、初節句といっても、お生まれ月によっては、赤ちゃんの月齢が随分と変わりますね。

ねんねの用意(座布団を二つ並べて白いクロスをかけておく)はいらないかも。

お出でになってから、伺うことに致しましょう。

 

いらっしゃいました!先ずは、お母様と主人公の坊ちゃまと、お祖母様。

まだお一人ではお座りも難しいかもという坊ちゃんでしたので、ねんねのご用意をさせて頂きました。

 

早速に、若いお母様と、そのお母様で楽しそうにお飾りを始められました。

 

その後、若いお父様とそのご両親様がいらして、皆さまお揃いです。

 

 

ここで、先ずは乾杯!となるところですが、只今はアルコールの提供が禁止されています。

お客様の方も、十分にご承知して下さってはいますが、こちらとしては、心苦しいです。

 

これまでのノンアルコールビールの他、急遽取り寄せた様々なノンアルコールのメニューをお持ち致しました。

 

”へぇ~ノンアルコールのスパークリングワインなんてあるんだね。”

 

”はい。この度、急遽仕入れてみたもので、私もまだ頂いたことがございません。”

 

”そう、じゃ、試しにこれにしてみようかな?” と、若いお父様。

 

ーーー大丈夫かな?

ーーークリスマスに飲む子どもシャンパンみたいなものじゃないのかしら?

 

黒服さんが、おしゃれなグラスにカッコよく注いでくれました。

瓶も、本物と見紛う立派さです。

 

でも、後で

”いかがでしたか?ご感想を頂けますでしょうか?”

 

”う~ん、リンゴジュースみたいです。”

 

ーーーもはや、ぶどうジュースともお感じにならないのですね。

ーーー甘かったのね。

 

”申し訳ありません。”

 

”いえ、全然。無事に乾杯出来たので。でも、やはり、ノンアルコールビールを下さい。”

 

ーーーですよね。

 

さて、主人公の坊ちゃまですが、初めて見る顔(私)が気になるのか、着物姿が珍しいのか、私から目を離されません。

皆さんが笑ってしまわれるほどの執着のご様子です。

 

そんなに綺麗な目で見つめられると、、、恥ずかしくなってしまいます。

 

お料理を運ぶ度に、見つめ合う私たち、、、

 

そして、坊ちゃまがご機嫌さんのまま、皆さんのデザートまでもお出し致しました。

 

お写真のご要望があり、伺うと、

おおお、テーブルの上が片付いている!

 

食器やお湯のみがまとめられて、写真に写らない場所にまとめられてあります。

助かります。

 

皆さんが、兜のお飾りの周りに、素敵に並ばれて、いい感じのお写真が撮れそうです。

 

”はい!では、撮ります。”

 

ーーーあら、常に私から目を離さなかった坊ちゃまがこちらを向いてくれません。

ーーーそっか、私に気付いていないのね。

 

”こうちゃ~ん、こっち向いてくださ~い”

と、手を振って、自信満々にお声をかけました。

 

向いて下さいません。お隣のお祖母様のお顔を触って遊んでいらっしゃいます。

 

”もう、おばさんに興味がなくなったのね。やはり、お祖母様にはかないませんね。”

ーーー失恋した気分です。

               

             失恋のイラスト「ふらられた女性」

 

その後、あの手この手と使いながら、激写して、笑顔も、足を踏ん張った腕白ぶりも、飽きてきた坊ちゃまの泣き顔も撮りました。

 

良い写真が撮れてるとおっしゃって頂いて、ほっと致しました。