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仲居さん日記10~蜘蛛の糸

先日、和室をご利用のお客様が、廊下まで出ていらして、”あの、これ” と、丸めたティシュを私に差し出されました。

 

ゴミを捨てて欲しいのかと思いきや、

”お部屋に蜘蛛が居たので捕まえました”

ーーーえええええ!!!

”申し訳ございません”

ーーーやだわ。ご不快でしたでしょう。でも、21階のここになんで蜘蛛!

 

”あのぉ、殺したりしていませんので”

ーーーわかるわぁ。蜘蛛って殺せませんよね。

 

とにかく、それを受け取って、さらにティシュにくるみ(ふんわり)、ゴミ箱の下の方に入れました。

ーーーここから、脱出できるかどうかはあなた(蜘蛛)の努力次第。

ーーーでも、逃げ出して、他の人に見つかっても私は知りませんよ。

 

私は、虫も殺さないというタイプではありません。

蚊を見つければ、パチッと叩きます。

でも、蜘蛛の場合は、早くどこかへ行ってと祈るだけで放っておきます。

 

芥川龍之介の<蜘蛛の糸>の影響です。

 

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極悪非道の男が、当然、地獄へ落ちるわけですが、そこにお釈迦様が蜘蛛の糸を垂らして下さる。それは、その男が蜘蛛を助けたことがあるからという、あの有名な短編です。

 

あの時、蜘蛛の糸が切れるのを心配して、続く人を足蹴にしてしまった男ですが、”さあ、みんなでこの糸にすがって極楽へ行こう!” と他の人のことも思いやれたら、あの糸は切れなかったのかもしれません。

 

 

何で見たかも覚えていないのですが、極楽図と地獄図が描かれていて、どちらもご馳走がたくさん乗っている丸テーブルを人が囲んでいます。

違うのは、極楽は楽しそうで、皆さんがふっくらとしています。

地獄はと言いますと、あばら骨が見えるほど痩せておそろしい形相です。

 

ここでの重要アイテムは、長いなが~いお箸です。

極楽では、その長いお箸で、向かい側の人に ”どうぞ” と、食べさせてあげる。

また反対側の人も、”あなたも、どうぞ” とするので、全員が満腹です。

 

一方、地獄では、我先に食べようとするので、長い箸がぶつかって誰も食べることが出来ません。

目の前に美味しそうな料理がたくさんあって、空腹なのに食べられないのです。

 

私が、万が一地獄へ落ちてしまったときは、このノウハウを皆に伝えなければ!と思っています。

 

 

蜘蛛の話に戻します。

 

その後、そのお部屋にお料理をお運びして、蜘蛛が出現してご不快だったことをお詫びし、ほぼ同年代のお客様と ”やはり、芥川龍之介でございますね” と、蜘蛛に対する気持ちを共有致しました。

             

 

少し、先輩格のお客様が、”昼の蜘蛛は殺してはいけないって言うわよ” とおっしゃいました。

そういえば、私も聞いたことがございます。

蜘蛛は巣を張ったり、迷惑な反面、害虫を退治してくれるので、そんな風に言われるのだそうです。