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仲居さん日記38

~お孫さんの二十歳のお誕生祝いに、

    大分からお出でのお祖父様&お祖母様

 

出勤すると、先ずは、ご予約のチェックをします。

一番奥のお席は3名様のご予約で、メモ欄に<お孫さんのBirhtday>とありました。

お祖母様のご予約でしょうか?お祖父様でしょうか?

可愛いお孫さんとのお食事を楽しみになさっているのが想像できます。

こちらもワクワクしてきます。

 

お料理はお出でになってからお決めになるとのことです。

 

開店15分ほど前です。裏でお箸の補充をしておりましたら、黒服さんの”どうぞ”の声が聞こえました。

ご来店のようです。

 

以前の社員さんの女の子は、開店前にお客様をご案内することはありませんでした。

お掃除も済んでいるのですし、入って頂けば良いのにと思ったこともありましたが、板場とのこともあるでしょうし、そこはバイトは口を出しません。というか、出せません。

なので、今の黒服さんのこういうところは好きです。

 

お出でになられたのは、お祖父様、お祖母様、そしてお孫さんである綺麗なお嬢様でした。

これは、有りそうでない組み合わせです。

お母様もご一緒で親子3代でのご来店が多いです。

 

さて、お食事を決めて頂かなければなりません。

 

お祖母様は、ホームページなどでご覧になった御様子で、11,000円のコースとお決めになっていらしたようです。

ところが、コロナ禍で、仕入れの都合もあるのでしょう。

11,000円のコースはご予約制とさせて頂いております。

当日お受けできるのは、コースですと、5,500円と7,700円のものだけになります。

お祖母様は、ちょっとご不満です。

実際に電話予約をして下さったお祖父様に

 

”どうして、ちゃんと予約しなかったのっ!”

 

”だって、料理は当日でもいいっていう話だったから、、、”

 

ーーーちょっとマズい、この空気

 

”申し訳ありません。お電話を頂きました時の、私どもの説明が足りなかったようでございます。こちらの7,700円のコースも大変に評判の良いコースでございます。いかがでございましょう”

 

ここで、お孫さんが

 

”充分すぎるよぉ” と、可愛らしくおっしゃって下さいました。

 

”お祖母様の、お嬢様に一番良いコースをご馳走して差し上げたいというせっかくのお気持ちを大変申し訳ないことを致しました”

 

すると、お嬢様は、お祖母様に ”ありがと” とニッコリされました。

 

ーーー天使!

 

     

 

 

お嬢様のお陰で、お祖母様のご機嫌もすっかり直って、楽しいお食事が始まりました。

 

”初孫なんですぅ。もう、可愛くて。

今日で二十歳なんですよぉ。

主人は自営業なんですけど、孫が可愛さに今日は内緒で休んで来たんです”

 

すると、責任から解放されたお祖父様も

 

”テレビカメラなんかに映されると面倒なので、今日も気を付けているんですよ。以前、成田空港で映ってしまったことがあって、隣にいたのがこの人だったから良かったものの、ねぇ”

 

ーーーねぇ、と言われましても、、、この展開でお祖母様はよろしいのかしら?

 

”そうなのよ。バッチリ映ってて、色んな方に何処に行って来たの?って聞かれてしまって、、、しかも、羽田ならまだしも成田だったし”

 

ーーーテレビ放映も隣の件も笑い話になりました。お嬢様のお陰でお二人とも上機嫌です。

 

”去年、大学生になって、今は東京なんですよ” と、お話が止まらない祖母様。

 

”まあ、今の学生さんはキャンパスライフが御気の毒でございます”

 

”そうなんです。ほとんど大学に通わない内に、今年の子たちが入って来て、いつの間にか、私、先輩になっちゃったんです”

 

”ねっ、可哀想でしょ。私たちは、昨夜、大分から会いに来たんです”

 

”まあ、遠くからお出で頂きましてありがとうございます。地震、いかがでしたか?驚かれましたでしょう”

 

”タクシーで移動中で解からなくて、でも、あの後、羽田空港もしばらく閉めていたみたいですし、高速道路も閉鎖したでしょ。私たちはラッキーでした”

 

”それは、良うございました。日頃の行いでございますね”

 

ーーーと、言ったものの、電車に乗っている時に地震にあって、そのまま電車が3時間動かずに大変だったという話を耳にしたばかりです。

<日頃の行い>で片づけてしまうのでは、あまりに可哀想な黒服さん。

そうか!<日頃の行い>は、良い結果が出たときだけに有効な言葉であるわけですね。

 

お料理はお気に召して頂けたようで、お下げする度に”美味しかったです”と言って頂けました。

 

只今は、焼き物に、葉唐辛子が付いているのですが、ご飯の時に食べたいので、下げないでほしいというご希望がありました。

 

”はい”と言って下がったのですが、このコースのお食事は松茸ご飯です。

葉唐辛子は白いご飯で召し上がりたいのではないでしょうか。

 

お客様のところに戻って、白いご飯をひと口だけお持ちしましょうかとお尋ね致しました。

そんな些細なことでも、”あらぁ嬉しいねぇ”とおっしゃって下さいました。

 

かれこれ、私もバイト先で何年かお世話になっています。

板場には”ご飯、サービスして下さい”と、キッパリと言うことが出来ます。

今や、本当に働きやすい職場です。

 

デザートも、お誕生日のお嬢様には、通常の物にプラスして、小さなチーズケーキを付けさせて頂きました。

 

もちろん、とても喜んで下さいました。

 

特別なお食事会のお世話をさせて頂けるのは、仲居さん冥利に尽きるといいますか、本当に楽しいお仕事です。