母と私の着物ぐらし

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眉目麗しい茶杓

茶道では、茶杓はとても大切なお道具です。

 

hohoan.hatenablog.com

 

とても軽いものですが、重いものとして扱います。

”大切なものです” と、教えて頂くのと、大切に思うのとは違います。

つい、ひょいと持ってしまいがちですが、そんな時は先生から厳しくご注意がございます。

 

お茶のお道具には、雅で美しいものが多くあります。

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 ← ひな祭り茶事の初座の姿です。

 <反省>水指が曲がっていますね

     写真って怖い

    というか、雑な自分を反省しております。

 

徒然棚といい、御所車の香合といい、雛道具のようで、見た瞬間にその姿に心を奪われます。

 

それに比べで、茶杓は竹製の匙(さじ)です。

櫂先(かいさき)やら切止(きりどめ)やら、”見どころは色々あるのよ” と先生はおっしゃいますが、お稽古の時は、拝見するときの手順や扱いを覚えるのみで、見ているふりをしておりました。

茶杓の姿には、まるで関心を持てませんでした。

 

それはお茶名を頂くまでになっても変わらず、お茶名披露のために自分のご褒美として求めたのは、棚でした。

 

そして最大かつ最終的な目標であった準教を頂けることになった頃、我が家はリーフォームの時期を迎えており、思い切って炉を切ることに致しました。

念願のmy茶室です。

 

準教までに育てて下さった先生をご招待して、お席開きのお茶事をすることにしましたが、先生のお稽古場でのお茶名披露とは違い、何から何まで自分でお道具をそろえなければなりません。

その時に出会ったのが、<佳日>という茶杓です。

 

茶杓を求めるにあたり、私なりの条件がございました。

先ずは、おめでたい銘であること!

お茶名披露の時は、お稽古で使わせて頂いている先生のお茶杓に、お稽古の時のように勝手に<瑞雲>と名付けて使わせて頂きました。

その銘も、先輩がおめでたい銘を書き出して下さったので(素晴らしいバックアップ体制)その中から選びました。

<瑞雲>とは、めでたいことが起こる前兆として現れる雲のことです。

 

次に、煤竹(すすだけ)であること!

煤竹は、100年、200年という長い年月をかけて、囲炉裏の煙でいぶされて自然に付いた茶褐色や飴色に変色した竹です。

今や囲炉裏のあるお宅は少ないので、とても貴重です。

その長い年月の末の姿には、どんな技巧も太刀打ちできません。

初めて求める茶杓は、煤竹と決めておりました。

 

そして、今後、どのようなお茶人生になろうとも、いついかなる所でも使える茶杓であること!

具体的には、大徳寺塔頭のご住職のお作の物ということです。

大徳寺はお茶にご縁の深いお寺です。

お茶名は宗〇と付けて頂きますが、大徳寺の僧侶の名前です。

一休和尚は宗純、沢庵和尚は宗彭(そうほう)というお名前です。

つまりは、お茶名を頂いたということは、在家の居士になったに等しいのです。

大徳寺の中でも、三千家菩提寺である聚光院、宗旦が修行をされた三玄院は、茶を志す者にとっては格別です。

 

お道具屋さんに参りましたら、聚光院の虎洞和尚がご住職になられたのを記念して作られたお茶杓が何本か展示されておりました。

ご住職になられたのは、ずっと以前のことでしたが、まだ展示されているものがあってラッキーでした。

<好日>という銘のお茶杓もあって、その時は、好日と佳日ってどう違うの?と思いつつ、私が選んだのは<佳日>です。

<好日>は<日々是好日>があまりにも有名な禅語なので良く目にします。

禅語には深い教えがあるのですが、”ああ、好日ね” といった軽い印象になるのが嫌でした。

<好日>とは、平穏な日のこと。今日もいい日だなと満足できる日のことです。

<佳日>は<吉日>と同じで、お祝い事のあるおめでたい日のことを言います。

 

茶杓の形には興味のない私でしたが、煤竹の色目は見ておこうと、箱を開け、竹筒から出してみて、驚きました。

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何て華奢で美しい茶杓でしょう!!!

”おおお!”と思わず、私が漏らした声に、付いて下さっていたお道具屋さんの奥様が ”削り師は吉田高仙さん。名人よ。” と教えて下さいました。

無知な者まで引き付けるのが巧みの業。芸術なのですね。

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蟻腰の姿が素晴らしい。

茶杓はもともと軽いものなのですが、この茶杓は更に軽いのです。

櫂先もとても薄いです。

先生にご披露したときに先生も、その姿の良さを誉めて下さいました。そして ”お大事に” と。

 

普段使いの茶杓と並べるとその違いが明らかです。

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普通の茶杓は、竹の筒に入って、更に桐の箱に入っていますが、私の<佳日>は

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 先ずは、絹の袋に入り

 

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 共筒(茶杓と同じ竹で作られた筒)に入り

 

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 和紙に包まれて桐の箱に入り

 

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 最後に漆塗りの箱に入っているという、正に箱入り娘。

 

ご縁があって私の元へ来てくれた<佳日>を心から大切に思っています。