茶杓は、抹茶をすくうための道具です。
竹で作られていて、耳かきの親分のようですし、華やかに絵付けされた茶碗や、美しい金蒔絵の棗に比べて地味ですよね。
私が茶杓を大切に思うまでには時間がかかりました。
そうなのです!茶杓はお軸に次ぐ大切なお道具なのです!
茶杓には、お家元や和尚様から付けられた名前があります。
その銘は、お軸の文言と共に、その日のお茶事の趣向を決める大事な役割を担います。
素敵な銘の茶杓がたくさんありますが、私の先生がご所持されているひとつに<邂逅(かいこう)>というものがあります。
邂逅とは、もともとは仏教用語で、自分の人生を左右するようなめぐり逢いのことをいいます。
ご縁があって、運命的に出会うわけですね。
難しい言葉だけれど、私が茶杓の銘にも興味を持つきっかけを作ってくれたお茶杓です。
もちろん、先生だからこそのお道具で、堅い感じの文字からして私には似合いません。
ちなみに、読むのも苦労するような難しい銘ばかりではなく、<花衣>や<紅葉狩り>といった季節感のある柔らかい感じの銘もあります。
決定的に茶杓を大切に思えるようになったのは、それはそれは姿の良い茶杓との邂逅があったからなのですが、それはまた別の日にするとして、茶杓の基本的な事を少しお話させて下さい。
抹茶は元々は薬として、鎌倉時代に禅僧である栄西が中国(宋の時代)から伝えたものです。
二日酔いのお薬として鎌倉幕府三代将軍源実朝(さねとも)に献上したという記録があります。
茶をすくうには、象牙などで作られた薬匙(やくさじ)が使われていましたが、室町時代になって竹が主流になりました。
竹には節があります。
← 櫂先(かいさき) 節を避けて作ったものを真の茶杓
切止に節があるものを行の茶杓
(左の写真は元節=行の茶杓)
中央に節がある(中節)を
草の茶杓と呼びます。
中には節が幾つもあるものや
蒔絵のあるものもあります。
← 切止(きりどめ)
初めは象牙の薬匙を真似て竹で作ったのですから当然節は避けて作り、やがて竹の節を景色として生かすようになったという流れなのだと思います。
竹の茶杓は茶人自ら削って作りうるお道具です。
ただ実際には下削り師がいて、最後の一削りを本人がするか、しないかというところです。
中節は、利休の下削り師の慶首座(けいしゅそ)の創意であったと言われていますが、そこには利休のアドバイスもあったやもしれません。
利休は茶の湯の創始者ではなく、それまであった茶を、優れた美的センスで洗練したものに仕上げていった人です。
上記のように茶杓に真、行、草がありますが、元は、真の点前、行の点前、草の点前というものがあり、真の点前には真のお道具を使う決まりになっています。
私がお茶事をする場合といいますか、大寄せのお茶会でも一般的には草のお点前をすることになりますので、中節の茶杓が普通ですし、一番見どころが多くて楽しいのが中節の茶杓です。
↓櫂先 ↓節 ↓切止め
↑折りだめ ↑腰 ↑追取(おっとり)
櫂先の形にも丸いもの、尖ったもの、折だめの角度も色々ですし、蟻腰といってくびれていて華奢なものもあります。
白竹だけでなく煤竹を使うこともあります。