母と私の着物ぐらし

着物の決まり事 日々のコーディネート 趣味の茶事 母との暮らし 仲居さんのバイト

主菓子 ~ 心惹かれるその名(めい) 新年から春爛漫へ ~

お茶事の亭主の一番の楽しみは、お道具組です。

先ずは、テーマを決めて、それに向けて、手持ちのお道具を選び、時には、自分のご褒美として新しいものを求め、組み立てていきます。

何といっても、大切にしたいのは季節感です。

そこで大活躍してくれるのが、お菓子です。

主菓子も干菓子も、その形、色で、和菓子職人の方が、全力で季節を表現して下さっています。

ほとんどの和菓子屋さんで、10日~2週間で主菓子の種類が変わります。

中には引き継がれるものもありますが、長くてもひと月でしょう。

それだけ和菓子職人さんは、繊細に季節を切り取っているというわけです。

 

お茶のお稽古では、お客様になった場合、”先刻のお菓子、大変美味しく頂戴いたしましたが、ご製は?” と伺うように習います。

ご用意して下さった亭主への感謝を述べる訳ですが、”ご製は?” に和菓子職人の方への感謝と尊敬があるように思います。

 

現実のお茶事ですと、お客様は、お菓子をご覧になった瞬間に、” まあ、きれい ”と思わずの感想がもれます。次に ”美味し~い” という声も襖の向こうから聞こえてきます。

もはや、お客様は、習った通りの問答ではなく、知りたいからお尋ねになるのです。”この美しく、美味しいお菓子は、どこのお菓子なのですか?” と。

 

お茶は、お互いの気持ちを察し合う文化です。あえて多くを語らずとも分かり合えるということは素晴らしいことです。

利休様も、”客亭主たがいの心にかなうは良しかないたがるは悪しし” とおっしゃっています。

わかってはいるのですが、私はついおしゃべりしてしまいます。

何軒かの和菓子屋さんを回って、季節限定の5~6種類の中から、本日これを選んだ理由。色、形、材料から想像できるお味(求肥で包まれているとか、きんとんとか、羊羹とか)そして、そのお菓子につけられた名前にも心惹かれたこと等など、、、。

 

特に主菓子には、魅力的な名が多いのです。

例えば、一月には新年ならではの、おめでたい名前が多く見られます。

 

あけぼの 

”春はあけぼの” だれもが暗記している枕草子の冒頭です。今、まさに日の出を迎える時間は、清少納言でなくとも清々しい気分になると思います。

ストレートに ”初日の出”や、”日の出” や ”初日” などの名もありますが、私は柔らかい感じのする ”あけぼの” が好きです。

 

蓬莱山

中国の空想上の神山で、仙人が住み、不治の薬を作っているのだとか。

おとぎ話のようで楽しくなります。

 

吉兆の春 

吉兆だけでも、新春でも、成立しますが ”吉兆の春” という文学的な表現に惹かれます。

 

常盤木 

松の意匠も多くあります。松の別名が ”常盤木(ときわぎ)” です。

常に青々と凛々しい姿の松。1000年もの寿命があるそうです。

 

此の花

梅の別名が ”此の花” です。

競技かるたの一番最初に読まれる ”難波津に咲くや此の花冬ごもり今を春べと咲くや此の花” の此の花は梅の花です。

 

福梅 

この名のお菓子は、どちらの製もふっくらとしています。名も形(なり)も優しいです。

 

誰が袖

”色よりも香こそあわれとおもほゆれ誰が袖ふれし宿の梅ぞも” により、梅の意匠に名付けられることが多いです。

 

2月には節分、3月には雛祭りと、季節の移りとともに、お菓子も変わります。

盛りと咲く花をモチーフにするのは、着物の柄と同じです。

 

福は内 

節分のお菓子も、”お多福” ”鬼” ”升” などありますが、”福は内” を名前にしてしまうって豆まきの声が聞こえてきそうで楽しいです。

 

初音 (はつね)

その年に初めて鳴く鶯の声を初音と言います。初めはホーホケキョと上手に鳴けず、ケキョケキョと可愛らしいです。”うぐいす”と名付けず、”初音” とするのが素敵です。

  

西王母 (せいおうぼ)

桃を形どったお菓子に名付けられることが多いです。

西王母は中国の伝説の仙女で、崑崙山(こんろんさん)に住み、桃を育てているのですが、その桃は三千年に一度実を付け、食べると不老長寿になるという伝説です。孫悟空もその桃を食べて不死身になったとのことです。 

三千年に一度ということで、”三千歳(みちとせ)” と名付けられるお菓子もありますが、そこまでいくと、私などは???になってしまいます。もう少しヒントを下さいという感じです。

ちなみに、西王母のお誕生日は3月3日だそうです。

 

ひなの袖

袖を形どったお菓子は、季節が変わると、色を変えて、名前も変えて登場してきますが、”ひなの袖” は格別に可憐な名です。

 

早蕨

春を代表する山菜のひとつである蕨が芽を出したばかりとは、春の訪れを知らせるのにピッタリです。

 

花衣

お花見に着ていく晴れ着を花衣というそうです。お花見は、単に桜の下で宴会をするものではなく、神様をお迎えして、五穀豊穣を祈っておもてなしをするものです。それを思えば、晴れ着を着るというのも納得です。

 

花筏

桜は、咲く前から私たちの心を躍らせ、咲き誇る姿で魅了し、桜吹雪の中を歩く幻想的な美しさを体験させてくれて、花びらが散って、川に落ちた後もなお楽しませてくれます。川面がピンクに染まる姿はとても美しいです。 

 

ひとひら

儚げで素敵な名です。

 

うらら(麗らら)

ほっとさせてくれる名です。”春うらら”というのもありますが、”うらら”だけの方が私の好みです。

 

てふてふ

あえての ”てふてふ” 表現。好きです。

 

春霞

あたり一面がほんのりと霞に覆われた姿は、のどかな春の景色です。

同じ現象でも夜になると ”朧(おぼろ)”というそうで、この ”霞” と ”朧” の時間差を職人の方は作り分けるといいます。

 

1月から季節を進めて参りましたが、ここで、いったん区切らせて頂きます。

次の季節はまた次回。