母と私の着物ぐらし

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突然、泣きじゃくる母~私はどうすればよいのですか?

子どもは、昨日出来なかったことが、今日は出来るようになります。

高齢者は、昨日まで出来ていたことが、今日は出来なくなります。

 

私だってそうです。

抵抗しておりましたが、老眼が進み、遠近両用メガネに変えました。

変えてみれば、何と楽な事!

               

 針に糸を通すときは、眼鏡を外します。

極度の近眼で、ひざ元も良く見えませんので、また、眼鏡をかけて縫います。

確かに面倒です。

でも、誰もが老いて行きます。

誰もが通る道と思えば諦めもつきます。

            曲がりくねった道のイラスト

新橋の母の店を手伝い始めた頃の私は、カラオケの番号まで覚えていました。

覚えようとしなくても、自然と頭に入ってしまうのです。

ところが、今はどうしたことでしょう。

バイト先で、ご予約のお客様のお名前を憶えておこうと思っても、記憶に残らないのです。

自分でもガッカリしてしまいますが、それが老いということだと諦めて、メモを片手にお客様をお迎えしております。

 

誰方様も、そのガッカリと、諦めの折り合いを付けながら、何とか楽しく生きていこうと努力されていると思うのです。

 

我が母は、そのガッカリ程度が激しすぎ、また、諦めも悪いので、そのストレスたるや大変です。

 

まず、目が本当に見え辛くなりました。

立ち位置によっては、そばに私が居るのに気づかないほどです。

玄関の前に、宅配便の大きなトラックが止まっているのが見えません。

あんなに大きなものが!と思うのですが、緑内障で狭くなった視野に白内障が進んでしまったので、あの銀色のボディは見辛いようです。

どこへ行くにも私が手をつないで一緒に行きます。

             つないだ手のイラスト

 それが、母には負担に感じることもあるようです。

 

先日、内科に行ったときのことです。

診察が終わって、通常でしたら、後はお会計をして、処方箋をもらって、合い向かいの薬局に行くという流れなのですが、お会計前に、監査室から名前を呼ばれました。

タイミングが悪く、母はトイレに行っておりました。

今となっての反省としては、トイレの母の所に寄って、一声かけてから検査室に向かえば良かったのです。

でも、病院も混んでいますし、呼ばれたら、すぐに行かなくちゃ!と思ってしまいました。

 

私が検査室で母の検査の予約をして戻ってきたら、トイレから戻っているはずの母がいません。

慌てて病院の玄関まで行くと、合い向かいの薬局の前にいる母の後姿が見えました。

 

”おかあさん!”

 

振り向く母

 

”お会計済ませて行くから、そこにいて!”

 

お会計の前で待っていると、母が戻ってきました。

 

ーーーなに?薬局で座って待っていればいいのに

 

狭い道路を挟んだ向かいの薬局ですが、病院に送り迎えをする自家用車や、タクシーが来るので、母一人では危険も多いのです。

 

ーーーまあ、いいわ。無事に来れたんだから。

 

”検査するように言われたから、予約したよ”

 

”なんで!?先生は乳癌の方の病院での検査結果を見て、悪いところは無さそうだから様子を見ましょうって言ってたでしょ!お前も聞いていたでしょ!何やってるの!”

 

私も、先生から検査について何も聞いていないことは検査の方に申し上げたのです。

それでも、この検査をしなさいと言われたら、他の病院でのデータで抜けている部分の検査を進められていると思いますし、家族としては心配ですし、断るという選択肢はなくなります。

 

”本人が、したくないと言っていると断って来なさい”

とにかく機嫌が悪い。

薬は出したがるし、検査はしたがるし、、、とブツブツ。

 

検査室に行って、予約をキャンセルして、お会計を済ませて、薬局での待ち時間に、

 

”お母さん、今後だけど、お母さんを病院に残して、一人で薬局に来ることはしないから、会計の前で座って待っててね”

 

返事なし。

 

母が乳癌を患う以前でしたら、ここで母娘喧嘩になっていました。

 

何で、待ってないのっ! 検査予約しただけで、何でそんなに怒られなくちゃならないのっ! 

でも、その言葉は飲み込みました。

乳癌の手術に向かう車椅子に乗せられた母の、あの後姿を見てからは、母には何も言えなくなりました。

 

お薬をもらって、いつものように手をつないで歩き始めたら、突然、母がしゃくりあげて、子どものように泣き始めました。

大粒の涙がこぼれています。

 

私が居なくて、本当はすごく心細かったのと、一人で自由に動けない悔しさと、、、

まあ、色々あったのでしょう。

 

私は、”なに泣いてるのぉ” というのが精一杯でした。

 

激しく泣くほどの母の悲しみの大きさは伝わります。

でも、正直、泣きたいのは私!という気持ちもありました。

だって、私はどうすれば良いのですか。

母の病院を優先して、バイト先にもわがままを言っています。

これでも頑張って親孝行をしようと思っています。

私がどんなにお母さんを大事に思っているか、お母さんもわかっているよね!!!と言いたかったです。

 

でも、現実に、女手一つで私を育ててくれた母が泣いています。

私が悪いに決まっているではないですか。

 

 

その晩、私は寝言を言ったらしいのです。

全く覚えていませんが、翌朝、母が

”夕べ、怖い夢でも見た?すごい大きな声出すから、お母さん、びっくりして見に来たんだよ。急に具合悪くなったかと思って。そしたら寝てるから”

 

どうやら、母に直接言えなかったことを夢の中で大声で言っていたようです。

そうやって、知らない内にストレスを発散しているんですね。